最近はすっかり競争政策とか規制の経済学とかから遠ざかっていた。その背景は、NTTの再編や料金をはじめとした規制緩和が進み、ネットワーク市場における国内の通信政策での議論がほぼ終わってしまったからだ。
2015年は通信市場の開放30周年だった。そのタイミングでこれまでの規制政策の評価をしてもよかったと思うが、そういう形で議論されることはなかった。唯一、規制官庁の視点から振り返った下記の書籍があるくらいではないか。
できたらこれに対する通信会社側の振り返りもあると、今後、過去を振り返るとき非常に貴重な資料になると思うのだが、通信会社からはこの手の本は出ていないと思う*1。
それで自分の興味も規制・政策から徐々に離れていたわけだが、昨年12月に競争政策研究センターが主催した公開セミナーでの議論を聞いて、俄然、興味が再燃してきたと言ったところだ。このセミナーと関係する報告書はこちら。
詳細は、当日の資料はすでに公開され、議事録も遠からず公開されると思うので、そちらをご覧いただければと思うが、印象に残ったコメントを以下にメモとして残しておく。
- 今話題のシェアリングエコノミー等はIoT等の新しい技術により見える化が可能にしたものだ
- それにより新たな競争政策上の課題が出てきている
- それを検討する上でこれまでの競争政策のフレームは通用する
- ただし、そのフレームを形作るいろいろな概念は新しい技術(時代)に合わせて再定義する必要がある
そしてある先生が言った一言「これまで長い時間をかけて皆で議論してきたことを再度一からやり直すことになる」・・・つまり、また研究対象になるということがこのセミナーでの議論を通し、自分にも確認できたということ。
時期を同じくして経済セミナーでも競争政策の特集を組んでいる。
上記の競争政策研究センターのセミナーに出席された先生も執筆している。両者は連携しては必ずしもないが、合わせて読むとこれからの競争政策の経済学に対する課題が見えてくるのではないだろうか。
多くの経済学者*2の興味を呼び起こし、議論が活発化することを期待して、自分もまたこの方面の研究に取り組みたいと考えている今日この頃。
*1:その理由の1つは、新規参入のNCCが現状、KDDIグループとソフトバンクグループに集約され過去の経緯をまとめづらくなったのではないかというのが一点、それからNTTは再編されたとはいえ、未だNTT持株会社やNTT東西は会社法の規制下にあり、かつ、電気通信事業法でも規制対象となっている部分が少なからず残っており、被規制者としては諸般の理由から積極的にはなれないのではないかという点が例えば考えられる。しかし、当時の関係者の苦労が記録に残されずに終わってしまうのは非常に残念だと思う。それはこの記事でも書いている通り、情報通信業界(あえて業界という言葉を使った)はまたその競争政策や規制のあり方を新しい技術を前提に考え直す機会が早晩来ると考えられるからだ。そうなったとき、85年の電気通信市場の改革からその後の議論の経験が教えてくれることも多々あると思う。
*2:ここでは経済学者で最近、情報通信業界の研究をしている人が必ずしも多くないという認識の下、書いている。特に若手の研究者が今後増えてくることを期待したいというのも、制度を考える際には、その制度によって規定される行動がどのようなものになるかは、経済学者の視点が欠かせないと考えるからだ。