今回、とある件でオムロンさんにお世話になるので、新ためてオムロンという企業を勉強するために読んでみた。創業者立石氏の生涯を描いた一冊だ。
オムロン・・・この社名、聞いたことはあるが、何を売っている企業なのか咄嗟には思い浮かばなかった。そこでHPを覗いてみると・・・製品・サービスとして以下の品目が並んでいる。
- 制御機器・FAシステム
- 電子部品
- 車載電装部品
- 社会システム
- 健康医療機器・サービス
- 無停電電源装置・組込みシステム
- 環境関連機器・ソリューション
本書を読んでも分かるが、上記の商品群を見てもお分かりの通り、どちらかというと産業機械、社会基盤を形成する機器を製造販売する企業だ。マスユーザ向けだと健康医療機器として電子体温計、体組成計(体重計)、血圧計、活動量計(歩数計)などであろう。だからオムロンというと電子体温計とか健康機器のイメージだ。
自分にはあまり馴染みはない企業であったが、東のソニー、西のオムロンと並び称されるほどの技術開発に熱心な、それをビジネスにうまく生かして成長してきた企業だ。その企業を築きあげたのが創業者である立石一真だ。本書はその立石一真の一代記であり、オムロンという会社の成長の記録と言っていいだろう。読んでいて面白い、興味深い、勉強になる。
「できません」と云うな―オムロン創業者立石一真 (新潮文庫)
- 作者: 湯谷昇羊
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/03/29
- メディア: 文庫
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構成は以下のとおり。
- まえがきードラッカーが絶賛した日本人経営者
- 第1章 青雲の志
- 第2章 立石電気創業
- 第3章 倒産の危機
- 第4章 プロデューサー・システム
- 第5章 夢のスイッチ
- 第6章 生い立ちと社憲
- 第7章 自動券売機と再婚
- 第8章 交通管制システム
- 第9章 CDと無人駅システム
- 第10章 健康工学と福祉工場
- 第11章 電卓の誤算
- 第12章 大企業病退治*1
- 最終章 人を幸せにする人が幸せになる
- 文庫版あとがき
根っから技術が好きだった人なのだなというのが読んだ後の正直な感想。自分を生かすため、経営者になってからは会社を成長させるために何をするべきかを常に考えていた。その先には「常に人のため」というソーシャル・サービスという考え方があり、常に重視していた*2。
目の前の利益を考えたら絶対手を出せないような開発課題も積極的にチャンレンジしたし、それが結果的に新しい製品の基礎となるという好循環・・・最後の方に出てくるが、SINIC理論という考え方(今でいうとSTS研究そのもののことだ)を一貫して経営の中心に考えており、ぶれることがない。
前半生はどちらかというと苦労の連続だった。大変な時期を乗り越え、立石電機を育てていったのだが、苦労した時代の経験がその後にすごく役に立っているというか、苦労した時に受けたいろいろな恩を終生忘れず、日々仕事を、会社を経営をしていたというのは本書を読めばよく分かる。
また電子部品を中心として、色々な革新的な製品を世に送り出していたが、技術開発、研究開発を通して社会に奉仕するというその姿勢は終始一貫したものであった。自動改札機が関西の私鉄で最初に採用された背景にはオムロンがいたのか・・・と今頃思い当たって見たり・・・前述のSINIC理論という考え方当時からあったのかというのを知ったり、そういう点でも読んでいて面白かった。
2020年を目前に控え、その後の本格的な人口減少社会を考えた時、イノベーションだ、オープンだ、子供達にはプログラミングだとか言っているけど、なんか違う・・・ということを本書を読んで再度認識させられた。R&Dをやるにも、哲学がないんだ、何のためにやるのよ?!という肝心の部分がない。その哲学があって初めてそれを前提にいかに世の中のことを観察するかが大切なのだ・・・ということだろう。そのように普段から確固たる考え、思想、哲学とそれに基づいた観察をしているから、第六感が活きる。あてずっぽうに言っているわけではない、日頃から考え抜いて見ているから、囁くんだ、自分のゴーストが。
本書は技術者が考える企業経営とはこういうものかという一つの大切な記録だと思う。
*1:大企業病と対峙した時のことを描いているこの章を読んで、今の日本経済は戦後経済の高齢化が問題なのではないかと感じた。今の経済政策、働き方改革とかが典型・・・そんなこと言っていられる場合なのか?と思わざるを得ない。それとボケも加わっている。体力も落ちている・・・高齢化そのものの日本経済、それを再生させるための政策が必要なのでは・・・と考えざるを得ない。それはここの企業にも当てはまる。どうするのか?
*2:例えば、本文中から抜粋すると・・・「ええか。企業を伸ばすことによって、企業には近隣の地域社会に豊富な雇用を与えることができ、その結果、地域社会に対して好ましい隣人になれるんや。得意先に対してはよい仕入れ先にになり、仕入れ先に対してはよい得意先になることで奉仕する。さらには企業は、当然の行為として適正な利潤の追求をするから、その利潤のうちの半分くらいを税金の形で国家に奉仕する。その残りで社員に対しては、高賃金の形で奉仕する。株主に対しては、高配当することによって奉仕する。得意先に対しては研究投資、設備投資を通じて、よい商品をより安く供給して奉仕する。さらに企業はその属する地域社会の恩恵を被っているから、利潤の一部で地域社会に対して具体的な社会奉仕ー福祉事業をして恩返しするんや。」(本文167ページより抜粋)