日本橋濱町Weblog(日々酔亭)

Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

昔、FRBT、今、FTBR

以下に書くことは、企業行動、産業政策、競争戦略(政策)を研究する上での基本的フレームの一つだと思う。自分が研究分野に入った時に教えられたこと*1だ。

分析の第一歩:経営のチェック・・・まずはじめは財務状況の確認

電気通信産業*2を研究するに際して、まずは事業者の財務を見なさいと教えられた。これは電気通信産業が現代の情報通信産業になっても変わらないと思う。まずは財務のチェックは彼らの行動を理解する上で全ての前提となる。


【効果音:sound effect】黒電話:old telephone sound

次は規制。当時、電気通信産業の大部分は、独占を認める代わりに、料金や参入退出に対して規制が課せられていたから、企業行動を制約することになる。つまり、経営戦略を理解するためには規制の理解が必須ということ。

三番目にそれらの情報を前提に経営を見なさいと・・・要するに電気通信事業者の経営戦略を理解するためには、その企業の財務状況、それに規制下の独占あるいは管理された競争と言われた産業なので規制・競争政策を理解しないとだめですよということだった。

そして最後に余裕があれば、技術についてみておくとよいとアドバイスを受けた。当時、電話の技術は多重化やデジタル化などいろいろ進展があったが、基本的な通信技術は完成されたものと考えて良かったと思う*3。そうすると技術への理解は最後でかつ可能ならと優先順位が下げられたのかと今振り返ると思う。

以上、電話時代の分析のためのイロハは、まずは財務:Financeを理解し、規制:Regulationを理解し、その上で、経営:Businessを検討するというもので、技術:Technologyについては理解できればさらに良いという位置付けだった。忘れないためにそれぞれの頭文字をとって、FRBTと覚えたというわけ。さて、30年後の現在はどうか。

 技術と規制の重要度:昔、規制、今後、技術

このFRBTの順番は変わった。産業そのものが変わったからだ。一番変わったのは、技術の部分だろう。公衆回線網からIP網へ変わった。後は、固定網中心のネットワークから移動網がアクセス網として主流になったということ。そしてそれを利用したサービス提供の部分はいまだに日々研究開発が行われ、通信インフラの上にいろいろなサービスが展開されることになっている。技術革新はハードより、ソフト面で活発に行われており、今後の情報通信サービスがどのように社会に普及してくるか多くの企業が試行錯誤している*4

こういう時代になってもやはりまずは財務を見る。やはり経済状況は何を見るにも大切な部分だ。そして次に見るのが、規制ではなく、技術だ。以前は余裕があれば見ておいた方がいいよぐらいの位置づけだった技術・・・今は、重要度が大きくなった。経営戦略を理解するためには、検討するためには、財務に続いてその業界や企業の持つ技術を理解しないといけない。そこを押さえて初めて経営戦略が理解できる、分析できるようになる。規制は最後にビジネス展開に影響を与えるときに押さえるようにすればよいということだ。つまり、FRBTはFTBRとなる。

FAGAと呼ばれる現在を代表する企業、FacebookAmazonGoogleAppleを見るときもそう、NTTやVerizon、AT&Tを見るときもそう。これが基本になり、各企業を理解する。

その上で、戦略やあるサービス(≒技術)の分析をするわけだが、個別企業の視点にたてば、当然、3Cの視点が基本になる*5。それを正確に理解するためにPEST分析もしっかりしておきたいところ。

これらのフレームは現状を整理し、理解するためのもっとも基本的な営みで、それが始まりだ。最近はインターネットで大概のことは調べられるので、まずここで最初のレポートができるだろう。しかし、これは始まりであって最終ではないということは重々忘れないようにすることだ。

この後、ある課題を分析するための仮説が設定され、それについてどのような分析が必要かが検討される*6

もう一つの基本的な構造

通信産業を見るとき、古くて新しい視点は、ネットワークと端末間の競争だ。電話の時代であれば、通話サービスは基本的にネットワークと端末(電話機)があって成立するものだが、交換機能、課金機能はネットワーク側で持っていた。一方、それに付属しているサービス、留守番電話機能、キャッチホン、転送機能など、それらん機能をネットワーク側で持つのか端末側で持つのかそれはそれで競争があったと見ることができる。

例えば、今、留守番電話は電話機側の機能として我々は使っているが、ネットワーク側で処理することも可能なはず。それがなぜ端末側で処理するようになったのか。キャッチホンや転送機能など、その他の付加サービスについてそのあたりの分析は今までなかったような気がする。

インターネットを前提とする現代、この視点は通信会社とFAGAとの競争の構図を考える時、1つの視点であり続けるのではなかろうか。クラウドサービスを考えると典型的だと思うが、従来はユーザごとに端末側で主導されていたサービスやデータの管理をネットワーク側でやるようになったものだ。現状は、クラウド化が世のトレンドで今後も続くだろう。それによりビッグデータを扱うことが可能となった。しかし、今度はそのビッグデータを有効に使うために、AIの可能性が議論され、アクチュエーターとしてのロボットの可能性が議論されている。それも集中処理ではなく分散処理が必要と言われている。

 これは全てがネットワーク側に寄せられるのではなく、やはり端末側で持ってもいい、持つべき機能や役割があるということだ。これに対する答えは、その時代時代の技術開発の状況や社会のあり方で変わってくる。その中でどのようなビジネスを展開するのか・・・今後もいろいろな面白いサービスが出てくるであろう。それが出てくることで、社会的課題を解決され、一方、制度的課題が提起されたりするようになる。

我々の商売は、その動きの中でどのように貢献していくのかが今後問われるのだろうが、そこを外さないためにもFTBRのような基本フレームと専門性はより大切になっていくのだろう。

*1:以前、このブログのどこかに書いたことがあると思うけど、今一度書いておこう。すぐ忘れるのでね。

*2:いまの時代、電気通信産業は、産業規模として相対的にも、絶対的にも小さいものになっている。端的には電話をイメージすると近いのだが、現代では、それは携帯電話になり、インターネットになり、さらにそれらの上で様々なサービスが出てきており、電話会社より、そのサービスを提供する新しい企業が大きくかつ成長率も高いという現実。分析フレームも当然変わっていくだろうということ。

*3:電話のネットワークが有する経済性がこれらの技術開発で変わることは基本的にはなかったということ。

*4:だから研究者は、研究室を出て社会で自分たちの開発した技術をどうすれば世の中で役に立てることができるのか・・・社会実装にまで関与するようになった。

*5:マーケティングや企業戦略を考える上でいろいろなフレームが提案されているが、まずは古典的なこの枠組みで抑えるのが今でも有効だと思う。

*6:何が問題なのかを正確に位置づけるためには、専門の知識が必要だろう。社会科学の出番になるわけだ。法学は規制を考える時は必要だ。そういう分析フレームを持っていないと、ある仮説がどのような背景から出てきているかをクライアント以上に理解することはできない。