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山田胡瓜:AIの遺電子:世はSFからSnFの段階へ

著者の前作『バイナリ畑でつかまえて』は自分にとってある意味衝撃の作品だった。そこには今までのSFやITものとは違う何かがあった。それがなんだかはっきりとは分からなかったので、その時のブログ記事はなんとなく面白い作品を読んだっていう感想以上のことは書けていない。

mnoguti.hatenablog.com

次の作品には期待するところがあったのだがすっかり忘れていて、今回たまたまAmazonで見つけた時は、反応が鈍く、著者の名前を見ても何か見覚えがあるというぐらい・・・しばらく経って「!」って感じだった。

AIの遺電子(1)(少年チャンピオン・コミックス)

AIの遺電子(1)(少年チャンピオン・コミックス)

 

 第1巻とあるので本格的な連載ものとして週刊少年チャンピオンに連載されているのだろうと思う。こういう作品が漫画読者層に読まれる時代になったということに時代が変わったということを感じる。本書を読んでいくと、ICTの社会実装を考えるにあたって社会の成り立ち、制度、秩序、倫理といったことを考えずにはいられない時代に入りつつあることを実感させられる。今までのテクノロジーがもたらすバラ色の未来や逆にそこにある危機を単純に描き出し、読者の興味を惹く内容とは明らかに違うものがそこにある。

本書の内容は以下のとおり。

  • 第1話 バックアップ
  • 第2話 かけそば
  • 第3話 ポッポ
  • 第4話 恋人
  • 第5話 富豪の秘密
  • 第6話 ベスト
  • 第7話 ピアノ
  • 第8話 ミチ
  • 第9話 夢のような母性
  • 第10話 海の住人

どの話も単なるSFではない・・・命を預かる医療現場がその主な舞台(主役はヒューマノイドを治療する医者だ)・・・今までのものよりも今そこに現実化しつつある近未来(いやもっとすぐそこ明後日あたり)の社会に起こるであろう課題を描き出している。第1話のバックアップでは、パソコンを使う場合、バックアップは定期的に行っておくようにというのが今までの時代だった。それが機器の性能の向上やクラウド化することによって意識しなくなったわけだが、AI≒人間の脳となったらどういう問題が起こるか・・・それをヒューマノイドを通して問題提起している。第2話のかけそばは逆にヒトの営みというものはどれも理想的なものに思えるが実はそうではないという話・・・ヒューマノイドの目を通してヒトの営みを描き出している(隣の芝生は・・・ということはAIでも起こりうるという内容。)。

他の話も何らかの問題提起と読める内容で、SFの世界でも時代がリアリズムを求めだした・・・と言ったら言い過ぎだろうか。話の内容は、今までのSF作品から敷衍した内容かなと思わせる場面もあり、そこを考えながら読むのもおもいしろい。

AIの遺電子 1 (少年チャンピオン・コミックス)

AIの遺電子 1 (少年チャンピオン・コミックス)

 

 物語は単なるSFではなく、Science non-Fictionとなることを予想させるのに十分な内容だ。未来社会における制度設計に対する我々の思考はこの作品から始まると言っても大げさではないだろう(大げさか^^;)。

 前著の「バイナリ畑でつかまえて」と一緒に読んでほしい一冊。

バイナリ畑でつかまえて

バイナリ畑でつかまえて