日本橋濱町Weblog(日々酔亭)

Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

ダイアン・コイル著『GDPー<小さくて大きな数字>の歴史ー』(みすず書房)

大きな変革期だからこそ様々な議論が巻き起こる。専門家から市井のおじちゃん、おばちゃんまで喧しい。そういう議論の中の話題になることもあるのか、GDPという経済指標。

成長が継続していた時期はGDPの水準や成長率に一喜一憂し、成長が止まると国民生活の評価基準としてGDPは適切かというような議論が出てくる。効用とか福祉とか非労働の価値とかが大切だとみんながのたまう。今がまさにそう。一方、GDPという経済指標は万能ではないことは周知の事実。経済活動の中身が変わってくれば、その変わったことによるGDPへの影響を把握できるように指標そのものを改良していかなければならない。 今の時代、物の経済からサービス・情報の経済へ経済活動の中身がまさしく変わってきている時期、この両方の議論がないまぜになってマスコミやネットに行き交っている。

結婚する二人へのはなむけの言葉として「好きよ好きよだけでは暮らせないのよ、家計のことを考えてしっかり仕事をしなさいよ」*1と会社の上司や先輩が言ってくれる言葉。GDPは国レベルでしっかり仕事をしているかどうかを測る指標と考えられないだろうか。そう考えると、GDPは物作りの経済からサービスや情報が付加価値を生み出す経済に変わっても必要であろう。ただし、今のままではうまく計測できない部分が出てくるであろうから、それをどうするかということになる。

GDP――〈小さくて大きな数字〉の歴史

GDP――〈小さくて大きな数字〉の歴史

 

 本書は、そのGDPの歴史、なぜ開発されたのか、どういう役割を果たしたのか、どういう問題点を抱え、それを解決してきたか、そして現在どのような問題が顕在化してきているか、今後どうなのかということが述べられている。目次は以下のとおり。

  • はじめに
  • 第1章 戦争と不況ー18世紀-1930年代
  • 第2章 黄金時代ー1945-1975年
  • 第3章 資本主義の危機ー1970年代
  • 第4章 新たなパラダイムー1995-2005年
  • 第5章 金融危機ー現在
  • 第6章 新たな時代のGDPー未来
  • おわりにー21世紀の国民経済計算とは

第1章はその出自の話だ。GDPという経済指標の開発の元々の動機が戦費調達のためだったというのは知らなかった。そして第2章、GDPが最ももてはやされた時代。日本もこの時代、高度経済成長、所得倍増計画GDPで追いつけ追い越せの時代だった。そして第3章から状況が変わる。現在を考えるには第4章以降をしっかり読む必要があろう。そしえ第6章での将来に向けての内容・・・議論がいろいろある中で、すでに注目すべきいろいろな取り組みがなされていることが分かる。経済が変化すれば、それを捉える指標も柔軟に変わっていかざるをえない。その変革の時が21世紀を15年ほど過ぎた今日、より鮮明になってきたいということだろう。

訳文もこなれていて読みやすい。GDPという言葉、Gross Domestic Product、国内総生産という。誰でもが、日々、新聞の経済面でお目にかかっているだろう。最近では、安倍内閣は600兆円を目指すって言ってるけどいまいち実感ないねえとか、豊かな生活とは金=GDPだけで得られるものではないよねえとか日頃いろいろ考えている人には、あぁ、GDPね・・・って感じで、経済といえばGDPというぐらい知れ渡った言葉だ。それについてちょっと専門的に、でも経済学をあまり知らない人が読んでも興味を持って読んでもらえると思う。

これから少しでもGDPに関する議論が内容のあるものになりますように、ぜひ、多くの人に読んでもらいたい一冊である。

*1:ええと、こういう風に言う方が一般的かもしれない・・・「好きよ好きよだけでは暮らしていけないのよ、ちゃんと仕事して稼ぎなさいよ」・・・と。どちらも似たようなものか。