久しぶりに一気に読んだミステリー。ミステリーには犯罪のトリックを楽しむものと社会派と呼ばれるものと分かれる。本書は後者の社会派に属するだろう。トリックよりはその描かれている社会の問題や課題を浮き上がらせ、それをミステリー仕立てで描くものだ。
書名から分かるように、本書のテーマはビッグデータを中心とする現在のIT業界。今、世の中はマイナンバー制度の導入で喧しいが、それも関係している。行政機関のオープンデータ、マイナンバーなどが関わる個人情報、そして民間企業がせっせと集めているビッグデータ・・・これらの交点で物語は描かれる。コンピュータウィルスなど古い問題から、IT業界の内側まで描かれており、そちらの面で物語にのめり込んでいく感じ。出てくる企業も豊洲にあるIT企業などとこの業界で仕事をしている人にはすぐにピンとくるような設定もある。それだけでニヤニヤしながら読んでしまった。
内容は以下の通り。プロローグー不起訴のあと・・・
- 脅迫
- 沢木
- 再開
- 奇妙なチーム
- 武だい
- 合宿所
- コンポジタ
- 帰路
- テント
- 再逮捕
- 調べ室
- 告白
- 内藤
- 山荘
- 白いドーム
- 裏切り
- 暴露
そして最後、エピローグとなる。量的にも結構読み応えのある内容だ。
実際のIT業界をある程度描写しているとともにその働く場面の描写も思わずニンマリしてしまうような記述がある。例えば、「パイプ椅子で尻を思いきり前にずらして座り、寝そべるような姿勢になっていた」・・・この光景は学生時代、工学系の院生がとるポーズとして記憶している。自分も仕事をしていて疲れてくると同じような姿勢をとることがある。身近な世界が描写されているって感じ。
それからITゼネコンを中心とする下請け構造も描写されている。あそこまで下請けが本当に構造化されているのかは自分も知らない、ある程度デフォルメしてあると思うが、多かれ少なかれこういう構造の業界がこの犯罪の背景にあることを物語の中で描いている。個人情報保護法が一つのテーマだがそれの問題点も指摘しているし、また権力者の情報に対する危ない関わり方・・・これがこのミステリーの核心なのだが、こういうのも実際にありそうなことだ。
以上の通り、この小説、ミステリーは伝統的な犯罪のトリックをストーリーを通して見破ることに面白みがあるのではなく、ミステリーという形態をとりながら社会の問題点を提起している点を重視して読むものだと思う・・・そういう点で社会派のミステリーということになろう。
今回、この小説の存在を知ったのは、「このミステリーがすごい!」に紹介されていたからだ。しかも10位以内には入っておらず、なかなか惜しい作品として紹介されていた・・・と記憶している。それだから逆に気になったのかもしれない。
自分はニヤニヤしながら読むところが多かったが、IT業界に働く人、IT業界と関わりのある人たちはどのように読むであろうか、読後感を得るだろうか。そちらも興味深いところだ。