日本橋濱町Weblog(日々酔亭)

Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

石川智健著「エウレカの確率 経済学捜査員とナッシュ均衡の殺人」

経済学捜査員シリーズの2冊目。
1冊目が面白かったので、kindle版が出るのを待っていたが、最近になって気づいて早々に購入。
先日、読了した。
感想は、「もう一つ!」というところか。

エウレカの確率 経済学捜査員とナッシュ均衡の殺人

エウレカの確率 経済学捜査員とナッシュ均衡の殺人

行動経済学を応用して、まずは殺人事件に該当しそうな案件を掘り出し、それが感情的なものか、合理的なものかを判断し、合理的な場合、その合理性に隠された非合理性を暴くことによって犯人をあぶり出すという組み立てだ・・・「勝ち逃げは許さない」という決め台詞。
感じたのはもう少し、ストーリの中で経済学の知見を出す部分を工夫できないかというもの・・・主人公の伏見捜査員が、関係者にしゃべる形で経済学的な関係を分析するシーンが多かったと思うが、そこは伏見氏の思索(その思索の途中で状況の行動経済学的構造を解説するポンチ絵があってもいい)の中で語らせればよかったのではないだろうか*1。関係者にしゃべるときは、経済学の専門用語を出すことはせず、普通に聞き取りし、状況を説明する。そちらの方がシチュエーションにリアリティが出てくるのではないかと思う。
それからこの経済学捜査員シリーズがまだ2作目ということもあり、読者にはまだ馴染みが浅いので、もう少し前作の内容を引っ張ってもいいのではないかと思った。後半になってプロファイラが出てきたりしたんだけど、もっと早くからそういう人、あるいは前回出てきた警察内の人物を登場させると、読者の頭の中で登場人物が自然と動くようになり、面白みが増したのではないかと思う*2
経済学をミステリーに応用するという非常に興味深い試みで実際、経済学者の協力も得ているようなので、経済学の啓蒙書としても期待できるし、シリーズ物小説としての工夫をもう少しすれば、面白くなってくるのではないかと思う。
次作が楽しみ。

*1:あるいは最初の攻殻機動隊のように欄外を存分に使うとか。

*2:要するに、遠山の金さんや水戸黄門などみな同じパターンを持っているわけでそういうのが必要ではと思った次第です。伏見捜査員の姿かたちは何回も描写されるのだが、それって、金田一耕助が頭をかきむしるとふけがぱらぱら落ちるというのと同じようなものだ。スーツが地味なのも、羽織袴みたいなもの。そういうレベルではなくて等々力警部、磯川警部とかのレギュラーメンバーが必ずいた。水戸黄門だって助さん角さんなどなど、そういうこのミステリーはこうだよね!っていう何かがもう一つ欲しいと思った。要するにそういうところが安定していると読者は安心してミステリーのトリックを考えることに没頭できると思うのです。