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小林雅一著「クラウドからAIへ:アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場」

クラウドからAIへ

クラウドからAIへ

 

 2013年に出版された本書を今(2015年の暮れ)、読み終わるというのは微妙だ*1。これだけAIという言葉が耳目に接するようになった現在、おそらく出版された(たった2年前だけど)当時に読んだ人が感じたであろう驚きは正直ない。一方、新ためてAIが注目されるのはなぜ?と思っている人にとっては本書は丁度いい知識を与えてくれるのではないだろうか。

この本を読み終わった後に「はじめに」に書かれている以下の部分を実感できればそれでいい。

今後、このAI技術の開発や導入で先行した企業は、次世代のIT産業はおろか、製造業からサービス業、小売業、さらには農業に至るまで、あらゆる産業で大きな影響力を揮うことができるでしょう。つまりクラウド・コンピューティングの次に来るキー・テクノロジーは、実はビッグデータというより(それを処理するための)AI技術なのです。

本書は以下の4章から構成されている。

  • はじめに
  • 第1章 なぜ今、AIなのかー米IT列強の思惑
  • 第2章 ”知性”の正体ーAIの歴史から見る、進化の方向性と実力
  • 第3章 ”知性”の値打ちーAIが生み出す巨大なビジネス・チャンス
  • 第4章 ”知性”の陥穽ーAIにまつわる諸問題
  • おわりにー「メルツェルの将棋差し」から「ワトソン」までの時間

書名は、「クラウドからAIへ」となっておりクラウドの事から始まるのかと想像させるが、内容はAIの話だけで終始する。はっきり言ってしまえば、クラウドについては、「はじめに」の上記で引用した部分で言及されるだけだ。つまり、本書は、クラウドからAIへの技術的な進化・発展を解説するのではなく、AIという今注目されている技術についての歴史的な経緯も含めた解説の本なのだ。

内容は、いろいろ考える素材を与えてくれる。AIとは何なのか?AIで可能になることは?AIはどういう問題をはらんでいるか?などなど、今読んでもいろいろためになることは確か。

これまで主に通信の世界で仕事をしてきた人間としては、通信ネットワーク自体はますます土管化し、付加価値をつける部分はAIに吸収されていくのかというイメージを持ちがちだ。だが、そういうネットワークとコンピュータと端末で役割分担されるというような発想はそもそも古くなっているのだろう。昔、C&Cという言葉があったが、おそらくその着想は今も生きていて、これからはネットワーク自体がAI化していく、ネットワークとAIが融合していく時代になるのではなかろうかと想像する。

著者の以下の本の方が新しい出版だけに、上記の内容からどのような発展があるのか・・・こちらも読んでみたい一冊だ。

AIの衝撃 人工知能は人類の敵か (講談社現代新書)
 

 

*1:こういう状況に接するとやはりITの世界は状況変化が早いと思ってしまう。まあ、実は他の業界でも同じようなものなのかもしれないけれど。