日本橋濱町Weblog(日々酔亭)

Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

いまごろ『経済学のチカラ』読んでます

去年の年末だったか、教えられて購入したのだけれど、ずっと読まずに積読になっていた。
最近、読書欲が少々戻ってきて(これも老眼鏡を作ったからだと思う)、やっと読む気になった。

色々な人が最先端の課題について書いている。比較的手軽に読めて、かつ、参考文献なども載っているのでさらに詳細な分析について知りたければその参考文献をたどっていけばよいので便利だ。
まず読んだのは、稲葉振一郎氏による「経済学素人学者による鳥瞰」だ。ゲーム論により経済学のフロンティアがいかに変わったかが述べられている。経済学は、政治学や経営学社会学を「浸食」していると図2「経済学帝国主義?」にまとめているけど、確かにそれらとの学問領域はあいまいになっているとは思うが、必ずしも経済学は「浸食」しているというわけではない。現に稲賀氏もすぐ次のページで以下のように述べている。

理論構築の目標は本来、複雑な現実の中から重要な若干のポイントを抽出してモデル化し、できるだけ単純なモデルで複雑な現実の振る舞いを理解すること、にあったのである。その観点からすれば経済理論の想定する主体モデルの単純さは欠点ではなくむしろ美点である。となれば、人文知が目指すべきは、単純で非現実的な経済理論のモデルをより複雑でリアルな社会理論のモデルで置き換えることではなく、複雑な現実のどこに単純な理論の刃を当てて現象の革新を抉り出すかを判断することである。それは賢慮に基づく洞察であって、それ自体では理論化できるものではない(理論の適用基準を与える理論を想定しても、更にその適用基準を与える理論を・・・と無限後退する)。社会学にせよ歴史学にせよ、人文知による賢慮は経済理論の限界を指摘し、それを補完するものであれ、それを否定したり、とって変わったりするものではない。

次に読んだのが、井上智洋氏の「私たちは機械に仕事を奪われていくのだろうか」だ。これはICTを例によく出される問題だ。「機械との競争」と「大停滞」が引き合いに出されていて、これらの見方は対立するものではなく、イノベーションの見ている部分が違う(プロセスイノベーションかプロダクトイノベーションか)だけで矛盾するものではないと述べる。簡潔にまとめてあって、かつ、過去の研究にも触れられており、技術の経済学のとっかかりとしていいと思う。技術の経済学・・・もう少し大きな塊(あいまいな表現で失礼)で研究されてもいいと思うが、そういう研究プロジェクトって難しいものか。

機械との競争

機械との競争

大停滞

大停滞

次は、バブル・・・「資産価格高騰の原因を説明する三つの仮設」。ミクロ経済学統計力学!、マクロ経済学の三つの立場から具体的な数値例を示し、分かりやすくバブルの発生を説明している。そしてちょっと飛ばして規制改革・・・「経済成長を促進させるのか」ではなぜ規制改革が経済成長に必要か、そして実際にその効果は出ているのかについて国際指標を用いて比較分析している。経済成長における規制改革の意義を検討している。
次は富の集中の話・・・「リスクテイクの報酬は経済成長の種子か徒花か」だ。所得分布の上位1%層内部構造とそれ以外の層の内部構造は全く異なること、そこではどのようなことが起こっているか、上位1%層にとどまるには何をしなければいけないか、その結果出現する社会はどういうものか、経済成長をもたらす可能性は・・・などなど、富の平等を経済成長の可能性という違う角度から眺めさせてくれる。もう少し書くと、高度経済成長期の日本は、所得格差を少なくして中間大衆層を厚くすることによって大きな需要を作り、ディマンドプル型で規模の利益を活かし、それで経済成長を果たした。そういう社会では所得格差、富の集中を少なくする方が経済成長を達成しやすくなる。一方、富の集中する上位1%の人たちがその階層にとどまるには、同額のではなく同比率の投資が必要となり、それが経済成長の起爆剤になりうるという。経済成長という視点から見たとき、富の集中をどう考えるかの視点を与えてくれる。
次は経常赤字・・・「それ自体は悲観すべきことではない」だ。経常収支は、貿易収支、サービス収支、所得収支からなる。昔から日本は貿易収支はよく新聞にも取り上げられ、耳にするところだ。最近は貿易収支や経常収支が赤字になるということで取り上げられることが多い(貿易立国=貿易収支は黒でなければならないという先入観があるからこりゃやばいって感じの世論)。ここで言われているのは、経常収支自体が赤字になること自体がよい悪いということではなく、その原因が何かに注意しなければいけないと解説している。
不況・・・「原因と対策に、まだ確固たる答えを出せず」とインフレ・・・「「望ましい」が経済学者の一致した意見は、バブル崩壊以降の日本経済のもっともホットな論点だろう。不況の生じるメカニズムの解釈には、需要側を重視するものと供給側を重視するものがあり、それぞれについて解説している。インフレはマイルドなインフレが望ましいものであることを説明している。
その他、第一部経済学はどこまで解明できたかでは、少子高齢化、政府の役割、アフリカ、アルゼンチン、CO2排出削減など現在の課題についていろいろと解説してくれている。また第2部では最先端理論についての解説などそのほかにも第5部まで国内外の経済研究の最新の情報、歴史が満載だ。

本書を読んでいると、今の経済学は、他の社会科学を否定するものではなく、経済学というより社会を科学する学問だなと感じてしまう。