ICTの技術革新は最近は90年代の勢いはなくなったというものの目覚ましい。それはより我々の近い場所で起こっているから、そう感じるのだろう・・・例えば、最近のAppleの製品群はその代表例になるのではないか。
本書は若手のICT研究者である岡嶋氏の最新の著作だ。岡嶋氏はシンクタンクを経て現在は大学を職場にし、ICTの最先端の技術・サービスと社会との相互作用を観察している。その最新状況を取りまとめ、近未来かいやもっと遠いことになるのか分からないが、未来を見通して書いたものが本書である。
目次は以下のとおり。
- 第一章 ネットがなくては生きられない
- 第二章 キーボード、マウス、ディスプレイからの解放
- 第三章 環境化するコンピュータ、贅沢品になる移動
- 第四章 ネットと権力
- 第五章 ネットの海の向こうへ
全体で180ページほどであり、また記述は平易で分かりやすい。ICTの今後を考える見方を示した内容がサクッと読めるというのも嬉しい。5章建てだが、一番のキーは第三章ではないか。キーワードとしては「環境化」がそれにあたる。
ポスト・モバイル―ITとヒトの未来図 (新潮新書) 岡嶋 裕史 新潮社 2010-07 by G-Tools |
第一章と第二章は、情報通信技術の発展史とそれが社会や個人とどのようにかかわってきたかを述べる。第三章への前振りにあたる。第三章は、今後のICTの発達がわれわれにどのようにかかわってくるのか・・・技術と社会の相互作用についての記述だ。そこでは例えば次のように書かれる。
- 何らかの技術が社会にインパクトを与えるには、その技術が登場するだけでなく、それに起因した装置運用の転換が必要である。(99ページ)
- いま起ころうと(あるいは起こそうと)している変化は、サービスを提供する窓口が「点から面になる」ことである。(101ページ)
- 出張は必要だろうか。・・・出張は人と会うという体験、・・・であるとすれば、同じ体験がわれわれの生活環境たるコンピュータ群によってもたらされるものであれば、人は本当に移動する必要があるのだろうか。(120ページ)
- 実態として仮想空間に高い親和性を持ち、そこに快を感じる利用者が一定の割合で存在し、また仮想空間を構成する技術で利潤を取っている企業や、仮想空間のコンテンツを想像することに喜びを見出すクリエイタがいる限り、今後も仮想空間の持つ存在感や比重が増大していくことは確定的である。(137ページ)
研究が深まれば第三章だけで1冊の本になるだろうと思う。最初の2つの章は第三章を述べるための枕だし、後ろの2つの章は第三章によってもたらされる社会についての思索を巡らしている。
本書は平易に書かれており、脳へのインプットとしては軽く読める書籍であるが、第三章についてそこから思索する、アウトプットを出すという点では重い書籍であると思う。いろいろな可能性が考えられる中で説得的に説明できるICTと社会の関係、環境化されるICTの社会へのインパクトを論じるか・・・これは重い。
夏休みの一時に読むのにちょうどいいかも(笑)