1993年発行の日本の電気通信市場(産業)のあり方を検討するため、経済学者や法学者が研究会を重ね、議論した上で執筆した書籍。
当時、電話サービスの長距離市場へのNCCの参入が本格化し、90年当時、東京-大阪間の通話サービスのシェアは60%に近づいており、携帯電話など新規サービスの市場は高率で伸び、新規事業者のシェアもそれなりになっていた。電気通信政策上、競争促進という視点が大きくなってきた時期だと思う。また当時の郵政省の裁量的規制手法にも批判があった。
そのような中で、95年のNTTの経営形態の見直し問題を視野に入れ、わが国の電気通信政策としてあるべき姿を議論したのが本書の内容だ。
日本の電気通信―競争と規制の経済学 (シリーズ 現代経済研究) 奥野 正寛 南部 鶴彦 鈴村 興太郎 日経 1993-02 by G-Tools |
章立ては以下のとおり。
- 第一章 イントロダクション-日本の電気通信の何が問題か-
- 第二章 電気通信規制の歴史と日米の規制比較-テレコム改革の政治経済学-
- 第三章 電気通信事業の規制と政府の役割-規制者と被規制者の政治経済学-
- 第四章 電気通信の産業構造-電気通信における競争導入の可能性-
- 第五章 電気通信事業の行動規制-競争による事業の活性化と効率化を求めて-
- 第六章 民営化でNTTの生産性は上昇したか-NTTの総生産性分析-
- 第七章 電気通信産業の実証分析-費用構造分析の意味するもの-
さて、刊行からすでに15年以上を経過した本書の内容は、技術革新により現在大きくその姿を変えつつある当該産業にとって、当てはまらなくなってきている部分も多々あると考えられる。一方、その本質は変わらず今でも十分参考になる部分もあろう。
大きく変わったという点では、当時はほぼ電話サービスが議論の中心であったが、現状ではブロードバンドであり、モバイルであり、上位レイヤであり、放送でありと議論の範囲は大きく異なっている上、多くの市場での競争も進展した。また総務省の政策形成プロセスにおいてもパブリックコメントを募集するようになりずいぶん様変わりしている。
当時と現在の違いを認識しながら、本書を読み直すのは、問題点を再度整理する上で有益なことだと思う。また当時は議論されていない視点も当然あり、それがどのように位置づけられるのかを再確認することも可能だろう。
そして本書を現代の文脈で書き直すとすると、その章立て、内容はどうなるのだろうかということを考えたりもする。