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Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

高杉 良:小説 日本興業銀行(第五部)

いよいよ最後の巻だ。第五部はおおよそ昭和30年代から50年代が舞台になっている。

  • 第27章 興銀大阪支店
  • 第28章 日特金属工業の救済
  • 第29章 日産・プリンス自動車の合併
  • 第30章 新大協和石油化学の設立と東ソーとの合併まで
  • 第31章 新日本製鉄の誕生
  • 第32章 頭取辞任

敗戦後、終戦後の混乱期を切り抜け、朝鮮特需などで経済が持ち直し、その後の高度経済成長を基調としつつも、その中にたびたび現れる産業界の困難にいかに興銀が対応していったが、中山素平やその仲間を中心に描かれている。

興銀大阪支店で行われたこと・・・お客の立場に立って行動する・・・当たり前のことだがなかなかできないことだ。それが信頼を生み、新しいお客を作る。そして自分らの存在を確かなものにしていく。

4061847805 小説 日本興業銀行〈第5部〉 (講談社文庫)
高杉 良
講談社 1991-02


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日特金属工業救済、日産・プリンスの合併、石油化学工業における役割、そして新日鉄の誕生まで、高度経済成長期からその後まで興銀が果たした役割が中山頭取を中心に描かれている。小説だから、気楽に読めるけど、当事者だったらたまらんなぁ〜と思いながら読んだ。それにしても興銀の人材の豊富さと人的ネットワークの広さには、本書の中でもたびたび触れられているが、圧倒される。

興銀が長期信用銀行として産業振興に果たした役割は非常に大きなものであったことが良く分かる。日本の経済復興や高度経済成長では政府の産業政策の役割とその評価がたびたび議論になるが、本書を読んでみると、特に高度経済成長期に入る前までは興銀らが果たした役割が大きかったように読める(・・・興銀について書いた小説なので割り引いて考えないといけないが)。

今の日本経済は当時とその外部環境が大きく変わっている中で、これらの産業システム、産業秩序を形づくってきたものを再構築しようとしてし切れていないように思える・・・市場メカニズムに任せればすべてうまくいくとすれば、その市場メカニズムが機能するような環境整備ができているのか・・・その整備を進めていく際の志(哲学というといいすぎかな)がないような気がしてならない。

政策担当者にしろ、経営者にしろ、学者にしろ、その他のステークホルダにしろ、市場メカニズムを機能させて、競争が進展するその先に何を描いているのか?それがないような気がする・・・あるいはあるのならばもっと世論にそこを説明すべきであろう。「競争の進展=値下げ」程度の認識ではないのか?

いろいろ考えさせられる小説だった。

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