日本橋濱町Weblog(日々酔亭)

Quality Economic Analyses Produces Winning Markets

数の構造2:有理数以降

前回は数の概念を拡張するのに、その四則演算との関係からそれを試みた。

それで有理数までは辿り着いたわけだ・・・というところで、有理数の復習。

・・・という具合に、割り算だけ具合が悪いことになっている。さて割り算では1÷3=1/3と分数で表される。あるいは-4÷7=-4/7なども明らかに整数ではない。

経済活動においても、不都合が起きる。例えば、市場取引の際の交換比率などは整数だけでは解決しない・・・と考えてみれば、ミクロ経済学はモノとモノの交換比率を分析する学問であると言えるであろうから、整数だけでは議論できないことになる。

そこでさらに分数まで扱えるように拡張し、登場するのが有理数である。有理数とは、分母が正の整数で、分子が整数(ゼロやマイナスでもOK)で表される分数である。有理数はQで表される。

有理数まで考えることにより、四則演算をすべて扱えるようになる。

さて、有理数を導入することによって四則演算に対しては閉じていることになった。

ところで、経済学は数の連続性を前提としている。その連続性は有理数への拡張で十分かというとそうなってはいない。

例えば、有理数が連続性を有していない例の説明としてよく出されるのが、数直線上に並べた有理数を考えるというものである。

2つの任意の有理数(x, y | x ≠ y)を考えた場合、zをその中点として考えると、z = 1/2x + 1/2yで求められる。これは有理数の計算だから答えのzも当然有理数になる。

この考えを繰り返せば、非常に小さい数であっても有理数有理数の間には少なくとも一つの有理数が存在することになる。ここから前回書いた性質が明らかになる。

有理数の性質:稠密性(xとyを相異なる任意の有理数とするとき、xとyの間には、これらと異なる有理数が少なくとも一つは存在する)

この計算を繰り返せば、数直線上には無数の有理数が存在する。このことから直ちに数直線上を有理数が完全に埋め尽くしていることになるかというと、どうだろうか。仮に有理数で直線上がすべて埋め尽くされているのであれば、経済学で必要な数の概念?も有理数まででよいということになる・・・が、実際はそうにはならない。

無理数の存在である。

ある無理数はある有理数の数列の極限として表すことが出来る(詳しくは参考文献を参照のこと)。この性質を使うことによって、無理数によって空いている数直線上の穴を埋めることができる。

上記の有理数無理数を合わせて実数()という。実数の性質は以下のとおり。

実数の性質1 実数の集合Rは四則演算に関して閉じている。

実数の性質2 極限の計算について閉じている。

実数の性質3 任意の2つの実数の間で、大小関係(統合の場合も含めて)の比較が出来る。

この実数を導入することによって、上記で説明した無理数を求める際の極限の考え方(計算)も可能になる。実数においては、極限の計算に関しても閉じているのである。

極限と聞けば、微分である。微分(≒変化率)は経済学の分析においては重要な分析ツールであるのは誰でも分かるであろう。つまり、経済学において議論をしようとすれば、極限の概念は絶対必要になる。結果、有理数ではまだ不十分で、実数への拡張が必要になる。

お恥ずかしながら、今まで実数空間を前提として議論するその理由をあまり深く考えずにやってきた。まあ、今まで知らず知らずのうちにブラックボックス化していたところが一つはっきりしたということで、めでたしめでたし。

数列の極限を計算する際に使われる定理

任意の数列{ann=1,2,3...と{bnn=1,2,3,...はいずれも収束し、その極限をそれぞれa, bとするとき、次の1〜5が成り立つ。

  1. 数列{an + bnn=1,2,3,...は収束し、lim(an + bn) = a + bである。
  2. 数列{an - bn}は収束し、lim(an - bn) = a - bである。
  3. 数列{an ・ bn}は収束し、lim(an ・ bn) = a ・ bである。
  4. b ≠ 0のとき、数列{an / bn}は収束し、lim(an / bn) = a / bである。
  5. kを定数とするとき、数列{kan}は収束し、lim(kan) = kaである。

この定理を使う際の注意点:∞の扱い

∞はあくまでも「無限に大きく(小さく)なっていいく」という状況を表す単なる記号であって、数ではない。よって、この定理をlim an等が∞になるケースに直ちに適用することはできない。

これまでの議論で明らかになったことは・・・

  • 数の構造:自然数から実数まで
  • 経済学で実数が使われる理由

というところだろうか。

【参考文献】
佐々木宏夫「初歩からの経済数学? 数の世界(その2)」(『経済セミナー』日本評論社、2004年5月)